2009/08/05
■2009年8月4日 朝日新聞
■2009年8月4日 朝日新聞
20年、30年後の未来につながる一票を――。政治が若者に冷たいのは、投票率が低いせいだと感じた20代、30代が立ち上がり、衆院選を前に、投票に行くきっかけ作りやマニフェスト作りに取り組んでいる。インターネットなどを使って同世代の無関心層に訴え、投票率アップをめざす。(森川敬子、松浦祐子)
東京・渋谷と大阪・梅田で2日、浴衣や甚平姿の大学生たちが、若者に投票を呼びかけるチラシを配った。
企画したのは東京の学生団体「ivote(アイ・ヴォート)」と、大阪の「BIG UP大阪」。「ivote」は今年2月から「メールプロジェクト」を始めた。ホームページ上で登録すると、自分が選んだメッセージが、公示日や投票日にメールで届く。代表で東京大3年の原田謙介さん(23)は「僕らの30年後について政策の議論がないのはなぜかと考えたとき、僕らが投票しないからだと気づいた」と話す。
早稲田大キャンパスでは7月下旬、Tシャツに「ぼくら世代は年金0円。ケータイの広告ではありません。」などのコピーを印刷した学生10人ほどが、投票を呼びかけるビラを配った。
核になったのは、政治について気軽に話せる場を作りたいと4月に発足した「言論塾」。7月、同大の1、2年生に「政治に関する素朴な疑問」アンケートをとったところ、「女性議員はなぜ派手な格好をしているの」「裏金って全部でいくらくらいあるの」などの声が寄せられた。これらの声をもとに、広告会社に勤める友人の助けも借りながら、約20個のコピーを作った。
中心メンバーの荻野浩次郎さん(31)は社会人入試で入学した政経学部2年生だ。「投票率がちょっとでも上がれば、政治家に無視されない存在になれる」
子育て世代も立ち上がった。神奈川県藤沢市で自然食料理店を営む古屋賢悟さん(39)は「未来は僕らの手の中プロジェクト〜選挙に行こうぜ!」に取り組んでいる。
インターネットや口コミでサポートショップやサポートミュージシャンを募り、投票した人が「投票証明書」を持参すると、ビール1杯が無料になったり、即興で1曲歌ってもらえたりするなど、様々なサービスが受けられる。各地の商店街が企画する「選挙セール」と似ており、その全国版ともいえる。
15年前に第1子が生まれてから「未来」に目が向いたという古屋さんは、暮らしの課題はすべて政治に直結していると痛感。07年の参院選のときに仲間3人とプロジェクトを立ち上げ、鎌倉市議選や東京都議選でも、共鳴する若い世代らとともに実施した。
「楽しい未来への一票が、楽しいサービスにつながればうれしいでしょう」と古屋さん。ホームページ(http://www.shonan-senkyo.net/)で協力者を募集、全国に広げたい考えだ。
●同世代向け、独自案も マニフェスト
投票率を上げるだけでなく、政策課題に若者の声をもっと反映させていこうという動きも始まっている。
「各政党のマニフェストには、驚くほど若者世代向けの政策がない。数年に1度の選挙。若者も自分たちの国のことを考えていこう」
政策課題に取り組むNPOなど22団体でつくる「Brand New Japan」(BNJ)が2日、都内で開いた若手討論会「真夏のポリシーフェスタ」で、幹事の一人、坂田顕一さん(32)がこうあいさつした。
坂田さんは、就職氷河期世代。同世代には非正社員で働く人も多い。今の政策は若者世代に不利にできていると思うが、ただ政治に反対を唱えるのでなく、建設的な議論が必要だと感じてきた。
討論会では、市民の立場から地方分権を考える「道州制.com」や、世代に特化した問題を扱う「世代政党」のあり方を検討する武蔵大のゼミの取り組みが発表された。
複数の団体が共同で作成中の「ワカモノ・マニフェスト」の中間報告もあった。世代間格差の克服を目指し、大手企業に非正社員からの採用枠設置を義務づけることや、政策決定過程に若者の参画を義務づける若者参画基本法の制定などを盛り込んだ。
マニフェスト創案者の一人でNPO「Rights」副代表理事の小林庸平さん(27)は「財政も社会保障も破綻(はたん)しかけている。将来、それによって苦しむ若者の意見をマニフェストを通じて政治に訴えたい」と話す。
メンバーは、各政党のマニフェストに、どれくらい若者向けの政策が盛り込まれているかも検証している。11日にはその「若者度評価」とともに、正式にマニフェストを公表する予定だ。
●損している意識ない
「バラマキの裏に国と地方の800兆円もの借金があり、そのツケを払わされている意識が若者に全くない」
早稲田大の森川友義教授(政治学)は、こう憂える。35歳ぐらいまでを対象に「若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?」を出版した。
20代の投票率は低い。05年衆院選で46・2%、07年参院選で36・03%だったのに対し、60代はそれぞれ83・08%、76・15%で人数も多い。森川さんは「政治家にとって、投票しない1千万人近い20代は日本に存在していないのと同じ。政治も当然、投票する高齢者の方を向く」。世代ごとに生涯の受益と負担の差額(世代会計)をみると、70代は約1500万円得をしているのに、20代は2500万円損するという。
結果がどうであれ、若い世代の投票率を上げることに意義がある、と森川さん。「とにかく投票所に足を運ぶこと。若者党をつくるぐらい政治力を持たなければ」
◆中高生へ、模擬投票で親近感
未来の有権者である中学、高校生の模擬投票をすすめている「模擬選挙推進ネットワーク」。今回の衆院選では、全国約20校と連携して模擬選挙を実施する。
各党のマニフェストや新聞記事を読み比べてもらい、生徒たちが実際の政党や候補者に投票。政治を考えるきっかけをつくる狙いで、公示後は街頭投票やweb(http://www.mogisenkyo.com/)上での模擬選挙も行う。
中学、高校の教諭らが7年前に自治体の首長選で始め、07年の参院選では、全国約40校、約8200人の生徒が参加した。事務局長の林大介さん(33)は「未来の有権者に政治を身近に感じてもらわないと」と話す。「参加した子は早く投票権を欲しがるなど意識に変化が見られる。政治を考えるきっかけ作りにはなる」。米国にはいくつも団体があり、昨年の大統領選では全米で600万人の未成年者が模擬選挙に参加したという。
実施校などの協力で、全国の中高生2646人に「10代の世論調査」をしたところ、国会議員に伝えたいこととして「学費が高くて大学行けなさそう」「税をどう使っているか高校生にも教えて」といった声が上がった。公示日前に各政党に「10代の公開質問状」を送り、回答をウェブ上で公開する予定だ。
