2009/01/16

■2009年1月15日 読売新聞

■2009年1月15日 読売新聞
「展望09」社会保障部長 小畑洋一
「『安心の共有』若者にも」

「遭難フリーター」という映画を、昨年末に見た。
製造業派遣で働く若者が、自民の日常生活を記録したドキュメンタリーだ。社員寮のアパートに住み、単純作業で受け取る給与は手取り月12万円。夕食がそうめんだけの日もあり、休みの週末は別の日雇い派遣の仕事をする。精いっぱいのその日暮らしで、将来への展望はない。
撮影は2006年から07年にかけてで、頻発する「派遣切り」を意識したものではない。
〝主演・監督〟の岩淵弘樹さん(26)は、「自分を含めて、非正規労働の問題は自己責任の部分が大きいと思う。映画は人生の一時期を記録しただけで、苦しい生活を訴えて社会に改善を求める、という意図はない」と話す。
だが彼の意図とは別に、この映画からは、<20歳代の若者たちにこんな生活をさせる社会でいいのか>、というメッセージが発信されている。
国際的な金融危機に端を発した景気悪化で、非正規労働者の生活が脅かされている。
政府や自治体は、失業者の臨時雇用や住宅あっせんなど、様々な救済策を打ち出し
た。
派遣労働者らの再就労対策は緊急課題だが、それができたからといって、問題が解決するわけではない。
パートや派遣などの非正規労働者は、雇用者全体の3割以上にまで増えており、年収
200万円以下の「ワーキングプア」層は1000万人を超える。「派遣切り」に遭った彼らが従来通りに働けるとしても、待っているのは「遭難フリーター」の世界だ。不安定な雇用、貧困から脱し、自立した社会生活を営めるようにするための中期的な支援が、求められている。
そもそも、日本の社会は若年層に冷たい、と言われる。
約89兆円にのぼる社会保障給付費(06年度)の7割は高齢者向けで、育児支援などの
家族政策は4%にすぎない。職業訓練など雇用政策費の国内総生産(GDP)比(04年)は0.7%で、スウェーデン(2.6%)やドイツ(3.5%)の3分の1以下。社会保障=高齢者政策というイメージが強く、若者政策は置き去りにされてきた感がある。
これについて、広井良典・千葉大学教授は、「これまでは若年層への保障を主に企業(終身雇用など)や家族(生計、育児など)が担ってきたため、公的支出が少なくてすんだ。だが、その安全網はほころび始めており、今や人生のリスクは高齢期だけとは限らない。若年層を対象にした人生前半の社会保障の重要性が高まっている」と指摘する。
その具体的な内容として、若者政策に詳しい宮本みち子・放送大学教授は、①子育て世帯への経済的支援と子供の教育保障②住まいや生活費の保障と職業訓練③非正規労働者の待遇改善―などをあげ、「若者たちが平等に教育訓練を受け、順調に人生のスタートを切れるような支援が必要だ」と言う。
こうした政策の実現を求め、若者たちも動き出した。20歳、30歳代の地方議員や研究者らが中心になって、総選挙前の公表を目指し、「ワカモノ・マニフェスト」作りが進められている。原案に盛り込まれているのは、公的教育、就労・育児支援の充実、社会保障給付の世代間格差解消など。リーダー格の千葉県市川市議・高橋亮平さん(32)は、「将来に不安を感じているのは、高齢者だけではない。若者が積極的に声を上げることで、どの世代も安心できる持続可能な制度を提案したい」と話す。
昨年のこの欄では認知症ケアを取り上げ、<だれもが穏やかに老後を過ごせるような社会を>と書いた。その考えに変わりはない。高齢化が一層進む中、お年寄りの暮らしを守ることは最重要課題だ。
だが、穏やかに過ごしたい、と願う気持ちは若者も同じはずだ。社会生活に必要な知識や能力を身につける機会を保障すること、解雇されても次の仕事につけるような職業訓練の仕組みを整えること、そして家庭生活と両立して就労を継続できるように働き方を見直し、育児支援を拡充すること。その日暮らしではなく将来の人生設計を描けるように、若者たちを支えるための政策を、早急に実行する必要がある。
今年は、社会保障の範囲を「人生前半」にまで広げ、世代を超えた安心の分かち合いについて考えてみたい。


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