2010/12/20

政治への需要を作れ

間中健介(まなかけんすけ)

ワカモノマニフェスト策定委員会

特定非営利活動法人 政策過程研究機構 理事

http://www.ppi.or.jp/

2010年の十大事件を選べるとしたら、迷うことなくチリのサンホセ鉱山
落盤事故の救出作業の成功に1票を投じたい。
「人類にとってアポロ13号のミッションと同じくらいの偉業」と形容した
メディアがあったように、まさに人類を月に送った知恵は、絶望を希望に
換えた。地下700メートル、摂氏35%・湿度90%以上の環境に閉じ
込められた33名を救出するために、NASAをはじめとする多くの研究
機関や企業、個々の専門家たちが知恵や物資を供出し、偉業の成就
を支えた。

救出された人たちの知恵と努力も評価したい。掘削による土砂の運搬など、
トンネルの完成には彼らの作業もまた不可欠だった。精神的にも肉体的にも
ギブアップしてしまいそうな環境下で一致団結して奇跡を成し遂げた彼らの
功績もまた称えられるべきだろう。

浮上した勇者たちを尻目に、一向に浮上しないのが我が国の政治だ。
デフレ、就職不安、気候変動、少子化といった、耳にタコができるほど聞かさ
れてきた膨大な問題に私たちの社会は何年も悩まされているが、政治は有効な
解決策をタイムリーに提示できていない。菅直人首相を批判することに筆者は
何の意味も見出していないが、説明責任を果たさなければならないのは小沢一郎氏
だけではない。政治家にとって政治資金収支報告書だけが「説明ツール」ではなく、
諸問題に対して公共経営者としてどんな経営判断をし、何に取り組んだのかを国民に
わかるように説明することが説明責任である。
少なくとも、説明するための最大限の努力はしてほしい。

この説明責任、言い換えるとアカウンタビリティなる観点は、90年代以降のビジネス環境に
革命的な影響を与え、企業のあり方はもとより、仕事の進め方を抜本的に変えた。
従前は「気心の知れた」株主や投資家ならびにマーケットに対して法令等に定められた
情報開示を行なっていれば許されていたが、現代の企業は「気心の知れない」株主や投資家、
自前の情報発信ツールを有する無数の個人と向き合わなければならない。単に法令等に
定められた情報開示を行なうだけではなく、より情報の受け手を近くに意識したうえで、
迅速かつ的確にメッセージ発信をしていかなければ、世界はおろか日本国内の投資家や
消費者からの信頼すら勝ち取ることはできない。

こうした環境下で努力している企業以上の努力を政党は続けていかなければならない。
もちろん、選挙の際に外部の知見を取り入れてマニフェストを作成するようになったことや、
選挙の立候補者選定に公募制度を取り入れたことは説明責任の観点からも政党の進化と
言える。ただ、会計報告はもとより、組織としての意思決定や業務執行の方針と形態、
事業の結果についての丁寧な説明は皆無だ。たとえば、本気で財政再建に取り組むなら、
党内に「財政再建委員会」なり「財政健全化担当副幹事長」なりを設置して、政党ウェブ
サイト内に専用ページを設け、かつトップページにシンボルマークぐらい入れても良い。
党の看板政策としてテレビCMを制作するのも良い。ページ内には、スローガンを並べた
作文でなく、どんな法案や政策を実現するために、党としていつまでにどんな努力をする
のか、およびそれによる国民生活への影響や国民への要望などを記載する。未達成の
場合はその理由を記載する。

このような主張をすると政党関係者からの批判が多々ありそうだが、説明の努力をしないよりは
よほどましな案であると自負する。全情報を開示せよということではないが、公共経営機関
として不親切なコミュニケーション姿勢は許されない。日々メディアに登場する議員たちの
威勢の良さと、説明責任の現状とのギャップがあまりにも大きいのは、何とも皮肉だ。

有権者の4割が国政選挙に行かず、7割が地方選挙に行かないという「政治支持率」が低い
現状を招いたのは、国民の怠慢ではなく、政治に対する需要を作ってこなかった政治家や
政党の怠慢である。「日本では個人献金は根づかない」などと言う暇があれば、献金への需要を
作る努力に勤しんでもらいたい。決まり文句のように「おカネをかけないクリーンな政治を目指します」
と言い放つのではなくて、おカネと知恵を十分に集められる政治こそがクリーンな政治の証左
なのである。

チリの人たちが示したように、偉業は単独では成し得ない。衆目の知恵や物資を集める観点で
「説明責任」を洗練化し、社会革新のために能力を存分に発揮することを、日本の政治に期待したい。

★今回のポイント
・政治は民間企業に比べ、あまりにも説明責任を果たせていないし
そのための努力もしていない。
・方向性は示すようになったが、プロセスの説明が不足している。
そういった地道な努力こそ、政治への需要を喚起するはず。

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