2010/10/08

「社会保障安定化のための増税はまるまる負担」という神話は本当か?

コップの中の不毛な政治闘争はやめ、政策論争を深めよ
―「社会保障安定化のための増税はまるまる負担」という神話は本当か?

一橋大学経済研究所・准教授
兼 経済産業研究所コンサルティングフェロー
小黒 一正

小沢前幹事長が民主党代表選に出馬表明した。「政局あって政策なし」
の状態が続く日本。いまや日本の公的債務残高(対GDP)は190%にも
達し、先進国中で最悪の水準だ。
財政危機に陥ったギリシャは約120%に過ぎない。
「現状のままでは、2020年頃には、政府の借金が1400兆円の家計資産
を食い潰してしまい、最悪の場合には財政破綻を招く」という試算も
ある。
このため、日本財政の将来像に危機感を強めた菅首相は、7月の参院選
で消費増税に言及した。そして「強い経済、強い財政、強い社会保障」
を一体的に実現する観点から、消費税を含む税制改革について、超党派
での議論を呼びかけた。
しかし、参院選は敗退。民主党内では増税戦犯説が主流となり、世代間
格差の是正に向けた財政再建には急ブレーキがかかりつつある。
財政再建の先送りにより、負担を押し付けられる若い世代にとっては
辛く悲しい現実だ。

社会保障安定化のための消費増税については、誤解に満ちた「神話」が
多い。一つの神話は、消費税の逆進性についての議論だ。
消費税の逆進性に関する解決策については、
拙書『2020年、日本が破綻する日』日経プレミアムシリーズ
をみてほしいが、給付付き税額控除などによって緩和でき、イギリス
税制改革の指針を示した「マーリーズ・レビュー(Mirrlees Review)」
でも既に議論されている。しかも、経済学的には、遺産を考慮しない場合
生涯でみると消費は所得に比例するのでそれほど逆進的とは言えない。
また、「社会保障安定化のための増税はまるまる負担」という神話もある。
これはとても根強い「神話」だ。テレビやマスコミで有名人が主張して
いることも多い。けれども、これも思い込みに過ぎない。
なぜなら、社会保障改革を進め、世代間格差が改善すれば、現役期に
支払った負担の多くは、老齢期の給付(年金・医療・介護)として返って
くるからだ。
そうなれば、社会保障における各世代の受益と負担は概ね一致する。
これは、政府を銀行とみなすと、現役期の負担は、老後のための
強制「貯蓄」に近くなることを意味する。だから、社会保障安定化のため
の増税はまるまる負担という「神話」は誤解に過ぎない。

では、社会保障における「真の負担」とは何か。それは
「現役期に支払う負担から、老齢期に受け取る受益を差し引いたもの」
である。これが真の負担で、世代会計では「純負担」と呼ばれるものだ。
しかも、賢明な方法でこの「純負担」はずっと小さくできる。
いずれにしても、社会保障安定化のための増税はまるまる負担という
「神話」は正しくない。

ただ、この「神話」を葬り去るには一つの条件が必要である。
それは、世代間格差を改善し、社会保障における各世代の受益と負担を
概ね一致させることである。
むしろ、増税の議論を行う際、最も重要なテーマは、「孫世代は祖父母世代と
比較して、約1億円も損をするという「世代間格差」をどう是正していくか」
という視点だ。
コップの中の不毛な政治闘争はやめ、一刻もはやく政治はこの問題に
取り組むべきである。そのためには、若い世代ひとりひとりが危機感を強め
その思いを政治の世界に伝えていく試みが重要だ。

★今回のポイント
・消費税の逆進性は、実際にはそれほど高くはない。むしろ、世代間格差を
是正する上では、所得税や保険料よりも若年層にとって有利である。
・増税=単純な負担増とは限らない。
社会保障の真の負担 = 現役期に支払う負担(消費税+保険料)
- 老齢期に受取る受益(年金・医療・介護)
現在は「負担」に比べ将来の「受益」が不安定なため、結果的に真の負担は
重くなってしまっている。

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